試肉
「ではこちらへ」 一点の皺も無いメイド服を身につけた知り合いは、普段にも増して慇懃な振る舞いで紅い館へ導く。早苗はその背中に附きながら、今一度横書きの便箋に目を通した。 『新しい料理を編み出したのですが、ぜひ試してくれませんか?』 早苗が通されたのは大きな厨房だった。大小さまざまな包丁や鋭利な針などが壁に吊り下がっている。台の上には色とりどりの調味料が並び、奥にはうっすら赤みがかった鉄棒が備え付けられている。だが食材はどこにも見当たらない。 早苗はすぐさま踵を返し、無言で厨房を出ようとした。だが先ほどまで向こうにいたはずのメイドが正面に現れ、小さな出口を遮った。 「勝手に動かれては困ります。試せないじゃないですか」 おわり 『ライオンと牡ウシ』より