アンコーハウス - 東方伊曽保物語 -

幸運のクローバー


「四つ葉だよー、四つ葉あるよー」
 大通りの一角に木箱を構えたてゐは、くしゃくしゃになった四つ葉のクローバーを並べて道行く人に声を掛けていた。だが人々は一瞥を送るだけでそのまま通り過ぎてしまう。どうにもならないと思ったてゐは単調な呼び声を一旦止めて、息を吸い込み、木箱の縁に手を突いて身を乗り出した。
「さーあこちらはなんと、持っているだけで豊かになる幸運のクローバーだよー」
 四つ葉の一本を手に取り、萎れているのもお構いなしに右へ左へ振り回す。すると、向こうから黒い三角帽子の少女が歩み寄ってきた。
「どうしてそんなものを売るんだ? 自分で持っておけばよいものを」
 てゐは塊を吐くように笑った。
「いつどこで幸運が叶うか判らないじゃない。私は今すぐ利益が欲しいのさ」

  おわり


『神像売り』より