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見返りと危うさの共有


 ぼんやりした月明かりに包まれた藍色の湖にて、チルノはルーミアに誘われて畔を散歩していた。
「あ! あれ何?」
 チルノは、小道の前方に巨大な大福らしきものが落ちているのを見つけ、涎を垂らして駆け寄った。拾い上げると表面はさらりとした肌触りで、大福にしてはやや平べったい半球型で、裏側は空洞になっている。周囲はフリルのように縁取られている。
「これなんだろう」
 チルノは後方に接近するルーミアに“大福”を掲げてみた。
「わかった! これドアノブカバー」
「見たことある?」
「うん。この質感、とってもいいやつなのかも」
 その言葉を聞いたチルノは目の奥を光らせた。
「へん! これはあたいが見つけたんだから」
「えー。“私たちが”じゃないの?」
 チルノはルーミアが眉を落とすのもお構いなしに、ドアノブカバーを右手で握ると胸を張って歩き始めた。カバーの直径はチルノの腕半分ぐらいあり、チルノが腕を振る度に、桜色のカバーが大輪の花のように揺れ動く。
「わ!」
 突然ルーミアが叫ぶので、チルノは背後を振り返った。ドアノブカバーと同じ桃色の服を纏う青髪の少女が、青筋を立ててチルノたちに迫っていた。
「もしかしてあたいたち、とっても危ない?」
「“あたいが”じゃなかったっけ?」

  おわり


『二人の旅人と斧』より