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寅丸の威を借るチルノ


 チルノが冬の寒さを全身に浴びながら空を飛んでいると、小道を通る者が眼下に映った。その者は、六尺ほどの黒光りする鉾(ほこ)を肩に抱え、はんぺんみたいに白い帯を輪っかにして顔を囲うように背負っている。大層目立つその恰好が気になって仕方がないチルノは、地上に降りてこっそりと後をつけることにした。
 その背中を間近に追っていると、やがて人里に辿りついた。道行く人々はチルノの方を見ると深々と礼をする。チルノは目を丸くしたが、人々の慇懃な態度が続くと目の奥を光らせ、追跡を放り出して往来の前に躍り出た。
「人間たちよ、これ以上寒くしてほしくなければあたいに金目のものを渡せ!」
 チルノの叫びが寒空に響き渡った。周囲の人々はこの小さな妖精に冷ややかな目線を送る。先ほどとはまるで違う反応に、チルノはまばたきを繰り返す。
「平和を乱す不埒者、直ちに成敗してくれる!」
 その時、チルノの背後に凛とした声が浴びせられ、振り返る間も無く鉾で頭を叩かれた。

  おわり


『神像を運ぶロバ』より