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厳冬の再就職


 厳しい冬の寒さが続く中、曇天に覆われた人里に二人の妖怪が足を運んだ。その二人は何の関わりも無かったが、気が付くと同じ道を辿り、同じ平屋へと踏み入った。
 中は広々とした土間があり、その奥は黒く汚れた板間へと続いている。くすんだ黄緑色の和服を着て正座する人間を前にして、小柄な方の妖怪が名乗りを上げた。
「私を雇ってくれないかい?」
 この者、博麗神社の酒蔵を横領して追われた憐れな鬼である。人間が「実務経験は」と訊くと、鬼は力強く頷いた。
「いえいえ私を雇ってくださいよ。建築の経験は無いですけれど、力仕事には自信があります」
 すると横から、長身赤髪の妖怪が割って入った。緑色の中華服を纏う長身の少女は、以前勤めていた館に白黒の強盗が押し入ったため、その責任を取らされて辞職した憐れな末端の妖怪である。
 妖怪の両者は、お互い一歩も引かないといった様子で睨み合う。
「私はそこの二人とは違うわ。建物の破壊なら私に任せて、根っこから粉々にしてあげる」
 突如、背後から透き通った声が響き渡った。いがみ合っていた二人が振り返ると、黒い帽子をかぶった青髪の少女が敷居を踏んで仁王立ちしていた。スカートの裾が七色に光り、薄暗い屋内を鮮やかに照らす。この者は、とても貴重な剣(つるぎ)を紛失した罪で天界を追われた、憐れな天人である。三人は額がくっつきそうなほど互いに迫り、ギリギリと歯を鳴らしてガンを飛ばす。
 そこへ、赤いリボンの巫女が前を通りかかった。巫女は三人がいる屋内をチラリと見て、何事も無かったかのように立ち去ろうとした。鬼が慌てて駆け寄る。
「霊夢ーごめんよー。もう勝手に宴会しないからさー」
 鬼は巫女のふくらはぎに擦り寄り、往来の注目も気にせず情けない声を出す。あとの二人も外へ出て、巫女たちの光景を呆然と眺めた。巫女はたいそう鬱陶しいと言った様子で鬼を見下ろしていたが、奥に立ち尽くす長身の二人を見つけると、キラリと目の色を変えた。

 鬼を含む三人の人妖は順々に霊夢から勝負を挑まれた。「負けたら相手の言うことを聞く」という条件付きで。そうして、神社への帰路を辿る霊夢の後ろを、三人がぞろぞろと附いていく結果となった。
 長い長い石段を上り、色の無い境内に着くと霊夢は三人を見回した。
「さ。あんたたちには神社を新築してもらうわ」
 三人は揃って渋い顔をする。
「で、完成したら寝床を貸してあげる。身寄りが無いんでしょう?」
 その瞬間、三人は顔を見合わせ、霊夢に向き直ると激しく頷いた。鬼に至っては頬を真っ赤にして涙を流している。
 そうして意気揚々と神社再建に取り掛かる三人の背中を見て、霊夢はこっそりほくそ笑んだ。

  おわり


『三人の商人』より