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親切な紫


 霊夢は、これも大事な職分だと自分に言い聞かせて畳の上に寝そべった。外から鳥の囀りが聞こえたので首を向けると、透き通るほどに晴れ晴れとした青空が目に飛び込んだ。と同時に庭から冷たい風が吹いてきたので、霊夢は少し身を縮めた。
「喉が渇いたわ」
 甘ったるい声が突然降り注いだので、霊夢は驚いて真上を見た。黄色い板の天井に楕円の穴があいていて、白い帽子に細く赤いリボンを結んだ金髪の少女が霊夢を覗いていた。
 霊夢が固まっている間に少女は穴の縁に掴まりながら床に降り立ち、霊夢の上に覆いかぶさるようにして尋ねた。
「お菓子はこっちで手配するから、お茶を頂けるかしら」

 二人は日の当たる縁側に並んで座り、霊夢は湯呑みが載ったお盆を少女との間に置いた。
「早く出しなさいよ」
「もう。ガツガツするとはしたないわよ」
 霊夢の催促に少女は軽快に応じつつ、目の前の何もない空間に穴を展開してその中を弄(まさぐ)った。
「ええと、あ、これかしら」
 少女は穴の中から二本の細長いものを取り出した。それぞれが黄緑色の笹の葉にくるまれていた。少女はその一本を霊夢に渡すと、自分の一本をいそいそと剥き始めた。すると中から、小豆色のつやつやしたものが姿を露にした。
「わあ、羊羹じゃない」
 少女は顔を一層輝かせ、笹の葉に悪戦苦闘している霊夢をよそに一口頬張り、空いている方の手を頬に添え笑みを浮かべた。続いて少女はお茶にも手を伸ばし、「甘味には緑茶よね」などと感想を述べながら羊羹をもう一口齧った。
 そのとき、まだ笹の葉を外せていなかった霊夢がその手をピタリと止め、冷ややかな目で少女を見た。
「よくよく考えたらこの包み、見覚えがあるんだけど。ここの台所で」

  おわり


『オオカミとヒツジ』より