心を撫でる死者
多々良小傘は博麗神社の屋根に乗り、正面に映る朝日を顔に浴びた。 今日もまた誰も驚かせることができなかった。いつになったら懐が温かくなるのだろう。こんな思いをするならいっそ消えてしまおうか。 まばゆい日差しに目を逸らした小傘は、足元の瓦に向かってぽつりぽつりと声を洩らした。 「その願い、叶えてあげましょうか」 背後から不意に声を掛けられた小傘は全身をぶるりと震わせ、恐る恐る後ろを振り返った。そこには、水色の着物を纏う桃色髪の少女が青白い数体の幽霊を侍らせて、小傘と同じく瓦の上に佇んでいた。 小傘は一瞬ぽかりと口を開けたが、言葉の意味を諒解すると直ちに首をブンブンと振った。 「いや、あの、あっそうだ、人を驚かせるコツを教えてくれませんか?」 そう捲し立てる小傘の動きはとても生き生きとしていた。 おわり 『老人と死神』より