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冷やされる熱、冷える熱


 うつほは暗い灼熱地獄跡を遠巻きに眺めた。ふと、端の方でチリチリとしている燃え残りが目に留まった。その瞬間、うつほの脳細胞が激しく燃え盛った。
 そうだ、私は生き生きとした灼熱地獄を再び甦(よみがえ)らせようとしていたのでは無かったのか。こんなところで燻っている場合ではない。今すぐでも外へ出よう。煌々と燃え滾る地獄絵図を地上に再現する、それが私に課せられた定めなのだ。見ていなさい地上の人妖たちよ、天と地をひっくり返してやる。
 うつほは荒々しく地面を蹴り、地上へと舞い上がった。

 地上へ出たうつほはまず高台から全景を把握してやろうと考え、妖怪の山へと向かうことにした。
 威勢よく麓から山の中へ入り込んだ。その瞬間、地底に比べて空気がとてもおいしいことに気づき、心を奪われた。辺りは赤や黄に色づいた木々が天蓋のように空を覆っていた。うつほは歩いて山を登ることにした。
 暫く歩いていると小さな少女に遭遇した。その少女は、透き通る目玉が付いた麦色の笠を頭に被っていて、小首を傾げてうつほを見上げた。
「こんなところでどうしたのさ」
「ちょっと地上を制圧に来たの」
「そんなことよりも間欠泉のお世話をしなよ。ほら、この温泉卵をあげるからさ」
 少女は白くてまあるいつやつやを差し出した。うつほはそれを見た途端、溢れそうなほどの唾液が口の中に湧き上がった。うつほは素直に頷き、ふわふわの温泉卵を手に取った。そうして温泉卵を齧り頬を落としながら、ゆったりとした足取りで山の麓へと向かっていった。
 去り際に、うつほの背後で少女が呟いた。
「知恵だよ」

  おわり


『キツネとサル』より