チキンレースin太陽の畑
チルノとミスティアはたびたび太陽の畑を訪れ、地上の向日葵を眺めながらあちこちを飛び回って遊んだ。暫くはそれで満足していたのだが、段々とただ駆け回るだけでは物足りなくなってきた。 「あのさ」 チルノがニヤリとミスティアを見た。 二人は向日葵たちに埋もれるようにして降り立った。 「ミスティアはこの向日葵に悪戯できる? できないだろうなあ」 正面で凛と咲く向日葵をチルノが指差した。背丈はチルノたちの倍ぐらいあった。ミスティアは口を尖らせズイと前へ出て、一度周囲を丹念に見回してから、向日葵の花の部分まで恐る恐る飛んでいき、一粒の種をつまんで引っこ抜いた。ミスティアはいそいそと地面に降りてチルノの方を振り返り、胸を張って小さな粒を掲げた。 チルノは「何それ」と腹を抱えて笑った。それから勢いよく向日葵へ近づくと右手を伸ばし、種の部分を思いきり掴み力一杯に引っ張った。手の中が種で溢れ返りそうになり、チルノは慌てて左手を添えた。それでも零れた数粒の種が地面に落ちて跳ね回った。チルノはちらりとミスティアを見て大きく口を開き、両手に抱えた向日葵の種をその口に押し込んだ。殻が割れる音を口の中で盛大に鳴らしながら、チルノは再度ミスティアの方を向いた。ミスティアは目が点になっていた。 ミスティアはチルノが種を呑み込むのを待ってから、深呼吸してもう一度向日葵に近づいた。今度は向日葵の外側、すなわち黄色い花びらみたいな部分に注目した。ミスティアは黄色いところの一枚を指先でつまんだ。それは陽の光に照らされてとても鮮やかだった。ミスティアは「ごめんなさい」と小さく囁いてから、ぷつりと黄色を引き抜いた。ミスティアの掌に乗った黄色は、向日葵たちの影で少し黒ずんだ。 「なかなかやるね」 チルノはミスティアの掌を覗き込み控えめな称賛を送った。ミスティアは濁った目で掌を見つめていた。 続いて、チルノは向日葵の前に仁王立ちした。チルノらに目をつけられたその向日葵は、荒々しく種を毟られ、外郭の一部が欠けた恰好で太陽を見上げていた。チルノは向日葵の根元を両手で掴んだ。そして、「ふん」という掛け声とともに向日葵を根こそぎ引き摺り出した。チルノは獲物を捕えたかのようにそれを掲揚してみせた。 「わかった私の降参でいいよ」 ミスティアは乱暴に頷いてから、伏し目がちに「ごめんねごめんね」と呟いた。 チルノは向日葵を握ったまま両手を大きく挙げ、充足感を満面に浮かべ空を仰いだ。そのとき 「あなたはどこを引っこ抜いてあげようかしら」 と、背後から涼しげな声が降りかかった。 おわり 『二羽のオンドリとワシ』より