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藍の板挟み


「藍、明日は結界の点検に行くわよ」
 藍は真剣な表情で頷いた。

「藍様、明日は人里とかにお出かけしませんか?」
 藍は微笑みを携え頷いた。


 藍は頭を抱えた。夜も深まった頃、縁側に腰掛けた藍は、月明かりに照らされた地面をぼんやり見ながら考えを巡らせた。
 私は紫様に忠誠を誓っている。だが橙のことも堪らなく愛おしい。ならば私が為すべき手段は決まっている。
 満月を見上げ、藍は静かに頷いた。


 翌朝、藍は幻想郷の端へ向かった。空から地上を眺めると、周辺は深い色の木々に覆われていた。
 前方に目を遣った。そこには約束通り紫様がいらっしゃって、“たまたま”やって来た橙と何やら話をなさっていた。
 計算通りだ。藍はにんまりと口角を上げた。
 すると、二人は藍の姿を見つけるや否やグイグイと詰め寄ってきた。思わぬ反応に藍は少し身を引いた。
「今日は結界を修繕するって言ったわよね。それなのにどうして遊び相手を呼んだのかしら?」
「違います! 今日は私とお出かけするはずでしたよね?」
 藍はあっ、と気づいた。二人に話をさせたのは稚拙だったと。
「当然、貴方の部下のどうでもいい用事なんかは放っておくと思うけれど」
「そんな言い方あんまりです!」
 藍が手を拱(こまね)いている間に、事態は着々と混沌さを増していた。けれども藍は努めて冷静に考えを巡らし、そして、二人の目の前でポンと手を叩いた。
「ではこうしましょう。
 紫様、そろそろ橙にも結界の扱いを少しずつ習得させたいのですが如何でしょうか。
 橙、こんな遠くまでお出かけするのだって久しぶりだろう?」
 藍は二人の目を交互に見ながら捲し立てた。二人は暫しの沈黙を見せた。だが直後、二人は互いに目を合わせたかと思うと、紫様が勢いよく舌を出してみせた。
「この半端者。軟派者。浮気者」
 軽快な口調で散々に罵倒された。それから、紫様は橙と手を繋いで仲良く結界の補修へ向かった。
 藍は覚った。紫様はなんと掌の広いお方だ。

  おわり


『男と二人の恋人』より