季節代表首脳会談
蝉の声が漸く静まり始めた頃、妖怪の山の拓けた一角では季節を司る者たちが集まっていた。 葡萄を付けた赤い帽子を被る秋の神様が、肌をつやつやさせながら述べた。 「ここのところ冬が長いから、ちょっと分けてほしいな」 春の妖精も、火照らせた顔をぶんぶんと縦に振る。 「えー……」 問いかけられた冬の妖怪は目が半開きで、視点が定まっていなかった。冬の妖怪は首を下げてうーんと考え込み、地面を向いたまま返答した。 「じゃあー……、またその時期になったら相談しましょう」 冬の妖怪はそう言い残すと、よろよろとどこかへ消えていった。 晴れやかな空の下、落ち葉が地面を覆い尽くしていた。二人の神様は前と同じ場所で、冬の代表の訪れを待った。 暫くして上空から、雲のような白さと湖のような青さを身に纏う冬の妖怪が山へやってきた。そのとき神様たちはひんやりとした寒さを感じ取った。よく見ると、妖怪の後ろに寒波が列を成してついて来ていた。残っていた山の落ち葉は一斉に枯れ、突き刺すような寒気が山全体を襲った。 神様たちはたちまち震えが止まらなくなった。冬の妖怪が二人の下へ降り立つ。 「さ、なんの話だったかしら」 周囲の寒さがぐっと強まる。神様たちは耐え切れず、慌てて逃げていった。 幾分かの時が経ち、冬の妖怪はひび割れた湖の氷を眺めていた。周囲はまだ雪に覆われているが、ところどころ水っぽくなっているところも現れ始めていた。 そこへ、雪景色に溶けそうなほど真っ白な春の妖精がやってきた。妖精は湖の上に浮いたまま、辺りの雪をあちこち指差す。 「さて。どうしてほしいのかしら」 冬の妖怪も宙に浮き、妖精に接近する。妖怪の動きとともに風が吹き、春の妖精はそれを全身で浴びてしまった。途端に春の妖精がぶるぶると震え出す。 「ねえ、相談があるんだけど」 冬の妖怪は、か細い右手で妖精の顎を撫でる。春の妖精は一層震え上がった。それを見た冬の妖怪は、口づけできそうなほどに顔を近づけ囁いた。 「もう少し、冬を続けてもいい?」 春の妖精は寒さに目をきゅっと閉じた。羽の動きがだんだんと鈍くなる。妖精はふらつき始め、堪らず首を縦に動かそうとした。 その時、冬の妖怪に横から真っ赤な球体がぶつけられた。次の瞬間、冬の妖怪が激しく燃え上がり、凄烈に湖へ落下した。水柱が割れた氷の破片と共に盛大に飛び散る。それから冬の妖怪はぶくぶくと泡を立てて浮き上がり、びしょ濡れのまま山へと帰っていった。 妖怪の姿が殆ど見えなくなったところで、木の陰から緑髪の妖精が顔を出し、ふわりと春の妖精に寄ってきた。それから、二人が上空へ飛び上がると、俄かに幻想郷の雪が融け始めた。 おわり 『恋をしたライオン』より