飾られたワイングラス
喜色満面の主が紅魔館へ帰ってきた。傍らを附いていくメイド長の両手には、何やら重厚そうな木の箱が抱えられている。 レミリアは大広間の上席に腰かけた。横にいるのはメイド長だけである。レミリアは木の箱を目の前に置かせて、両手でそろりとその蓋を開けた。中には、シャンデリアの光を上品に反射させる、すらりとした1本のワイングラスが仕舞われていた。 「これよ。まさかこんな片田舎で手に入るなんて」 レミリアは両手を組んで顔を乗せ、その輝きをうっとりと眺めた。メイド長は、冷たい表情のままぼんやりと主を見ていた。 件のワイングラスは、レミリアの指示でそのまま大広間に飾られることとなった。 さらにそれだけでは飽き足らず、レミリアは毎日少しの時間を取っては大広間に立ち入り、その姿を観賞するようになった。そして、ワイングラスを見ているときはいつも、レミリアの翼がぱたぱたとはためくのであった。 レミリアが毎日欠かさず大広間へ足を運ぶものだから、1人で大きな扉をくぐる様子を館の者に何度も目撃された。 フランがぼそりと言った。「お姉様は何をしているの?」 あるとき、いつものようにレミリアが大広間へと入っていった。程無くして、館の気温が急速に下がった。 レミリアの眼前には、粉々になったガラスの破片が散らばっていた。それら1つ1つがダイヤモンドの輝きを放っていたが、レミリアはもはやそんなことに気を留めなかった。 後処理のためにメイド長が呼ばれた。レミリアは、訊かれてもいないのに「これも運命だから」と呟いた。だがその言葉とは裏腹に、レミリアの瞳は終始左右に揺れていた。 掃除を終えたメイド長が、ガラスの目でレミリアを見て提案した。 「代わりに、廃洋館からお皿でも持ってきましょうか? どちらにせよ使わないのですから」 おわり 『守銭奴』より