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兎角同盟、鈴仙の受難


 急報が飛び込んできた。姫様が行方不明とのことだ。
 永琳に指名されたてゐと鈴仙は、永遠亭を飛び出して速やかに捜索を開始した。

 霧の湖に辿りついたてゐは、湖の中央に人影を発見した。目を凝らすとそれは、仰向けでぷかぷかと浮かぶ蓬莱山であった。
 姫様だ、助けなくては。そう思うや否や湖へ向かって駆け出したが、正面を何者かに遮られた。霧に映える紅いモンペを穿いたその少女は、てゐを鋭く睨んで問い質(ただ)した。
「輝夜を連れていくつもりなの?」
「そうよ」
「邪魔するなら燃やす」
 てゐは“何が邪魔なの?”と訝しげに瞼を絞るが、行く手を譲ってくれる気配は見当たらない。かといって、「姫様はお元気そうでした」と帰ればどんな目に遭うだろうか。
「だったら」
 耳をピンと立てながら頭をいっぱいに使って、次のひとことを紡ぎだした。
「姫様をこっちに渡してくれたら、いいものをごちそうするわ」
 微かに広がる程度の声だったが、てゐの目は紅い少女を一直線に見つめていた。
「不死者を食べ物で釣ろうなんて」
 少女は顔を和らげて小さく笑みを漏らすと、湖上で寝たままの輝夜に近づいて岸辺へ引っ張り上げた。

 黄緑の竹の群れが鬱蒼と生い茂る永遠亭への帰り道、てゐは輝夜を背負う少女と並んで歩きながら、目と耳で周囲の様子を絶えず警戒していた。その様子は、追手から身を隠す犯罪者さながらであった。
 暫くそれを続けていると、てゐだけが前方遠くで彷徨う鈴仙に気づいた。すると、てゐは少女に「ちょっと待ってて」と告げ、風を切る勢いで鈴仙の方へ飛び込んでいった。
 少女がひと休みにと輝夜を転がしながら待っていると、てゐが駆け足で戻ってきた。そのてゐの先導で竹林を掻き分けると、不自然なまでに綺麗に空いた穴がぽっかりと鎮座していた。
 その穴をてゐが指差してひとこと「召し上がれ」。
 てゐは火柱に包まれた。

  おわり


『キツネとロバとライオン』より