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幻想郷雛祭り


 斜面の雪が水混じりになる頃、幻想郷は曇天に包まれていた。

 ある時、妖怪の山が何やら小刻みに震えた。それから程無くして、遠目からもわかるぐらいに激しく揺れ始めた。
 異変を嗅ぎつけた人妖が何事かと群がり集まる。
「ああ、この世の終わりだわ」
「新しい世界の始まりかもしれないぜ」
「元凶はどこかしら」
 集まった者どもが口々に騒ぐその間も、山はお構い無しにその大きな身を振り続けた。ピシピシと空気が割れる音がする。
 怒るように大地を突き動かすその様相は、全てを根こそぎ呑み込まんが如くであった。

 突如として、固まったようにその揺れが止まった。そして雲間から一筋の光が差し込み、その輝きに包まれてお雛様がちょこんと舞い降りた。周りの人妖は一瞬硬直した後、だらしなく口を開けその光を眺めた。
 お雛様は浴びるような視線を一身に頂いてから、おもむろにその場でささやかな回転を始めた。他の者は誰も、わざわざ口を挟もうとしなかった。
 そして、ひとしきり回転すると満足したのか動きを止め、自らの足で川に浸かり、そのままくるくると流されていった。

  おわり


『山のお産』より