共犯
慧音が辿りついた時、既に炎が竹林のあちこちへ燃え広がっていた。乱れ飛ぶ火花が足元の闇を幾度も照らす。 火中をかき分けて奥へ踏み込むと、簾(すだれ)のような黒髪を腰まで垂らした和装の者が立ち尽くしていた。 「輝夜。お前がこの火事の下手人だな」 輝夜は鈍い反応で振り向き、焦点の揃わない眼差しで慧音の顔を見つめたが、やがて我に返ったような表情で首を忙しなく振った。 「いや、これは、その、違うのよ。私はこんなこと、そう、主犯は他にいるわ」 「主犯?」 「ええ、ええ。私は物を燃やすなんて小汚い真似はしない」 掴みかからん勢いで捲し立てる輝夜に、慧音はそれもそうだと相槌を打ってみせた。地面のあちこちには黒い焦げ跡が広がっている。 「犯人はあっちの方へ走っていったわ」 だが慧音は、そう言って足早に去ろうとする輝夜の手首を思いきり引き寄せた。 「逃がすと思ったのか? 共犯者」 おわり 『タカとナイチンゲール』より