妖精の館
日傘に寄り添う主とメイド長を見送った妖精たちは、駆け足で館へ戻った。今、地上階には妖精たちの他に誰もいない。初め、大広間へ集まった妖精たちは気兼ねなくがやがやするばかりだったが、ふと、妖精の一人が主の席に腰かけた。それに気づいたもう一人の妖精が、「お嬢様」と声を掛ける。さらにそれを見た妖精が、どこからか紅茶を持ってきて白いテーブルに添えた。彼女たちの遊びは瞬く間に全体へ広がり、皆がお嬢様やメイドの真似事を始めた。子供たちの遊び場が、一転して貴族の社交場へ変貌を遂げた。 「おーいメイド長、門番が寝ていたから教えに来たぜ」 すると黒い三角帽子を被った少女が、両開きの扉を勢いよく押し開けて入ってきた。妖精たちは一斉に振り向き、メイド役をしていた者たちが恭しく礼を送る。少女は言葉を失い、呆然と立ち尽くした。妖精の一人が少女に近づき、上衣の裾をつんつんと引っ張った。 「なに? 私たちがどう見えるかだって?」 黒の少女は気取った風に手を顔に添えて、妖精たちを端から端まで見回した。 「そうだな。品のあるお嬢様たちと、それにふさわしい立派な使用人たちだ」 妖精たちはそれを聞いた途端に目を輝かせ、無邪気に跳ね回り、少女を奥の席へ歓待した。 「レミリアいる? ごめんね、お茶の約束をすっかり忘れていたわ」 そこへ、紅いリボンを頭に付けた巫女装束が扉をくぐった。妖精たちは先ほどと同じように深々とお辞儀をする。巫女は「え」と息を洩らした。 「霊夢、こいつらをどう思う?」 紅茶と山盛りのお菓子を積まれた黒の少女が、笑みを浮かべて横目で巫女へ問いかける。 「そうね。よく躾けられたお利口な妖精だわ」 妖精たちは一斉に巫女へ飛びかかった。 おわり 『サルたちと二人の旅人』より