半霊の実体
冥界は紫色の空に包まれ、灰色混じりの草原を玉のような幽霊たちが往来する。白蓮は死者の世界を一目見ようと、単独で冥界を訪れた。挨拶のために楼閣を訪れると、桜の咲き乱れる庭には余所にも増して幽霊が屯(たむろ)していた。剣で枝を伐(き)り揃えていた庭師は、白蓮に気がつくとその手を止めた。 「どれが私の半霊だと思いますか?」 どこを見渡しても死人の魂ばかりで、まじまじと観察した白蓮は体の内側に寒気を覚えた。 「判りません」 「これ全部、私の半霊ですよ」 銀髪の庭師はあっけらかんと言ってのける。白蓮は青白い顔で「またまた」と言って、庭師の肩をポンと叩いた。すると庭師は表情一つ変えないまま、抜け殻のようにその場に倒れてしまった。尾の長い幽霊たちが、いつまでも白蓮を取り囲んでいた。 おわり 『キツネとサル』より