自然の相性
風を切って迫り来る尖った花びらを、リグルは稲妻を描くような動きで躱していく。 「まるっきり昆虫なのね」 花畑の真ん中で浮遊する女性が、突き刺すようにリグルを睨みつけた。リグルは花びらを避ける合間もあちこちの花へ近づき、目にも留まらぬ速さで蜜を吸い上げていく。女性はさらに髪を振り乱した。空を覆い尽くさんほどの花びらが、鳥の群れのようにリグルへ襲い掛かる。だがリグルは一点の間隙を見つけ、糸を縫うようにして花びらの層を抜け出した。 囀(さえず)りが響く森の中、リグルは満たされたお腹をさすりながら悠々と木の間を漂っていた。すると突然、リグルの右足が何者かに引っ張られた。見ると、足首に白い糸が幾重にも絡まっている。リグルはそれを振りほどこうと必死にもがくが、足が自由になるどころか、全身に粘性の糸が絡み付いていく。リグルは慌ただしく正面へ振り向き、そのとき初めて、自分が透明な蜘蛛の巣に掛かっていることに気づいた。それと同時にリグルの頭上から、金髪に土色リボンの少女が逆さまに下りてきた。少女は弛緩した笑みを浮かべる。 「いやあ、久しぶりに地上へ出たらたまたまあんたを見つけちゃってねえ。うまそうだから思わず巣を張っちゃったよ」 リグルは巣に思いきり拳を打ちつけた。だが空気を押したような感触で、リグルは前のめりになってさらに巣に取り込まれた。 「なんで! あの大妖怪を掻い潜ったのに、こんな粗末な罠にかかるなんて!」 おわり 『ブヨとライオン』より