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空の覇者と地上の番人


 魔理沙が前傾姿勢で空を駆けていると、射命丸が右横にぴったりとくっついてきた。
「何か用か?」
「私より速い人妖を探しているんだけれど」
 魔理沙は首を上げ、自分を指差した。
「ここにいるぜ」
「貴方じゃ私に敵わないわ」
「やってみないとわからないぜ」
 二人は上空その場で止まり、腰を落として幻想郷の奥を見据えた。
 魔理沙がポケットからコインを取り出し、真上に放り投げた。空気が止まる。コインが二人の目の前を落下すると同時に、両者は動き出した。

 駆け出しは互角の戦いだったが、徐々に射命丸の後ろを魔理沙が追う格好になり、目的地に到達する頃には家5軒分の差が開いていた。
 まばゆい太陽に照らされて、魔理沙が息を切らして屈む傍ら、射命丸は服についた埃をサッと払い落としていた。
 魔理沙として、このまま引っ込むわけにはいかない。最高速度がダメなのなら……と、魔理沙は汗を地面に垂らしながら、一計を案じた。
「なあ天狗。ただ速いだけが全てじゃないぜ」
 魔理沙は左の肩越しに射命丸へ話を切り出した。次に、射命丸の方を向き直って言葉を重ねた。
「いざというとき、先に反応できた方が有利じゃないか? 瞬発力が大事だろ?」
 人差し指をクイクイッと往復させながら言って聞かせる。射命丸も納得したのか、大きく頷いてそれに同調した。

 二人は再び飛び上がり滞空を始めた。最初に現れた人妖に、どちらが先に弾幕を当てられるかを競うのである。
 周囲では種々の花たちや向日葵が日光を得ようと、みんな揃って空を向いている。その合間から誰か出てこないかと、二人はぐるりと見回しながら注意深く観察している。
 すると、背の高い花々の間から緑髪の誰かが現れた。二人は素早く応じると一斉に弾幕を打ち込んだ。両者の勢いで凄まじい風が巻き起こり、周囲の草花が祈るように靡いていく。花畑は七色に輝いた。


 風見幽香は花たちとの会話を楽しんでいた。ところが不意に弾幕の雨にさらされたので、傘を構えて身体を縮め、自らを狙う弾幕全てを受け止めた。弾幕を放った相手は察知した。どちらもよく知るいけ好かないやつだ。
 砂埃が止むのを待って幽香は反撃の構えを見せたが、2人は既に跡形も無く消えていた。姿勢を緩め、いたわるように周りの花を確かめてみんなの無事を把握すると、目の色を落として呟いた。
「二人とも速いんだから、わざわざ争うことも無いでしょうに」

  おわり


『ザクロとリンゴとイバラ』より