アンコーハウス - 東方伊曽保物語 -

冬の妖怪と冬に生きる妖精


 横殴りの吹雪の中、チルノは上空高くへ舞い上がり、光の球をあちこちに撒き散らした。七色の弾幕が放射状に広がり、チルノをドーム状に囲ったところでピタリと止まった。暴風を物ともせず静止した光球たちは、裏返したかのように一瞬で灰色に染まる。それを確認したチルノは、右手の氷を軽く握り締めた。すると、灰色の弾たちはまるでそよ風に吹かれるかのごとく、右へ左へ散っていった。
 チルノは雪面にふわりと降り立ち、じっと佇んだままの少女に得意げな笑みを浮かべた。その少女は白地のスウェターに藍色のベストを着て、毛皮の白帽子で頭を覆っている。白いマフラーが風に棚引く。
「見た? 綺麗だったでしょ。それに比べてレティは青白いのばっかりで地味ね」
 チルノは腕を組み、いよいよ鼻高々といった様子で少女を見た。雪の少女は、眉一つ動かさずにチルノを見据えていた。
「そうね。確かに、私の弾幕は大して見栄えのしないものかもしれない。けどね、私にはこの土地の寒気を司る力がある。この吹雪は誰が起こしているのかしら? 自然に這いつくばる妖精が、どうやって私に辿りつくのかしら」
 チルノは我慢できなくなって、この少女を串刺しにしてやろうと白い光線を放った。けれども少女は吹雪に紛れて霧散して、影も形も見えなくなった。後には、轟々と鳴り響く吹雪だけが残った。

  おわり


『クジャクとツル』より