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猟奇的なメイド


「燃やしたって物質がなくなるわけではないの。だから私は燃えたってなんともないわ」
 薄ぼんやりとした明かりの下で真夜中のディナー。上席で自慢げに語るレミリアの横顔を見て、咲夜の心の底からふつふつと何かが湧き上がってきた。
 試したい。
 私の主は一体どこまでの困苦に耐えうるのだろうか。この目でもって確かめたい。
 傍らに立つ咲夜はお嬢様の手元を見下ろしながら、物思いに耽っていた。


 空がうっすらと白みがかった頃、咲夜は燭台を右手に持って、闇に包まれたレミリアの寝室へ侵入した。ぼんやりとした橙色の明かりに、口元の緩んだ主の寝顔が照らされる。
 咲夜はひとしきりそれを眺めた後、空いている手で蝋燭を燭台から外して、おもむろにそれをレミリアの右腕に押し当てた。焦げた臭いが漂い始める。咲夜は口をきゅっと結んで蝋燭を持つ左手を震えさせながらも、夢中になって主の腕を燃やし続けた。
 臭いがすっかり充満した辺りで、ようやく咲夜は蝋燭を離した。その跡には、いつもと同じつやつやした白い肌があるのみだった。


 咲夜は非常に葛藤した末に、紅茶に大蒜(にんにく)を混ぜることを決めた。夜半のティータイムはレミリアのお楽しみである。それを台無しにしてしまってはいけないと思いつつも、内から迸(ほとばし)る欲望には抗えなかった。
 極めて平静に、黄土色の紅茶を差し出した。レミリアはそれを確かめようともせず手に取ると、一口で飲み干してしまった。


 遠回りな方法が何一つ通用しないことを覚った咲夜は、最後の“実験”を行うことにした。
 余っていた諸々の花の種を、何気ない素振りで廊下にばら撒いた。めいめいに落下する種たちが絨毯に激突し、パラパラとかすかな音を立てる。
 それから他の仕事をこなしつつ暫く待っていると、レミリアが件の廊下を通りかかった。レミリアは廊下に散らばった種を発見すると、屈み込んでそれらを一心不乱に数え始めた。
 これを好機と見た咲夜は時を止めてレミリアの背後まで距離を詰めると、鏡面のように輝くナイフを構え、ほんの少しためらってから、主の背中に勢いよく突き刺した。
 レミリアは声を上げることもなくその場に倒れ、ぴくりとも動かなくなった。

 うつ伏せで絨毯にへばりつくお嬢様を、咲夜は糸が切れた操り人形のように無心で眺めていた。ついさっきまで自らを支配していた欲望は、もはや心のどこにも見当たらない。
 不意に、咲夜の耳元に息が吹きかけられた。その息の主が
「楽しかったかしら?」
 と囁くと、咲夜の意識は途切れてしまった。

  おわり


『モグラと彼の母親』より