アンコーハウス - 東方伊曽保物語 -

美を競うイナバたち


「イナバたちの中で一番美しいのは誰かしら」
 蓬莱山がぽつりと洩らした一言に、庭にいた兎たちの耳が一斉に反応した。直後、兎たちは中央に集まってあれやこれやと話し始める。
「いやどう考えても私に決まっているでしょう」
 すると、ひときわ背の高い二足歩行の兎が木陰から飛び出し、くるりと一回転してプリーツスカートの折り目をはためかせた。他の兎たちは目を伏せて口をつぐむ。鳥の鳴き声が上空から細長く響き渡る。
 その時、兎の群れから、桜色のワンピースを纏うふんわり耳の少女が堂々たる足取りで躍り出た。
「私の方が美しいに決まっているわ。なんてったって、綺麗な心が私を飾っているんだからね」
 兎たちは持ち場へと帰っていった。

  おわり


『キツネとヒョウ』より