打ち出の因幡
霊夢は薄汚れた継ぎ接ぎの装束を纏い、曇天の人里を越えて竹林へと足を踏み入れた。茂みの奥に綿毛みたいな兎耳を見つける。 「見つけた。さ、私に豊かな生活をちょうだい」 「急に何さ。手を差し出されても困るわ」 「頼んだわよ」 霊夢は後ろ手を振りてゐの下を去った。 次の日も、その次の日も、参拝客は来なかった。賽銭箱を覗くとパリパリの落ち葉がまばらに散らばっているばかりで、それを取り除く気力も起きない。 霊夢は戸棚から陰陽玉を取り出し、神社を飛び出した。 竹林の浅いところを沿っていくと、竹の根元に蹲(うずくま)っているてゐを見つけた。焦げ茶色の柔らかい地面を何やら掘り返している。 「ちょっと。あんたの御利益が一向に感じられないんだけど」 てゐは手を動かしているばかりで霊夢を見ようともしない。 「ねえ、聞いているの?」 「はい」 突然てゐが右手を差し出した。土で汚れた手に、宴会用の三角帽子みたいな黒い何かが握られている。 「これは?」 「タケノコよ。一枚ずつ剥いで食べるといいわ。貴方にはこれがお似合いね」 霊夢はタケノコを片手に取ってまじまじと見つめた。するとだんだん、熱を持った塊が霊夢の首筋を通って頭のてっぺんへ逆流を始めた。 「人をからかうのもいい加減にしなさい」 気が付くと霊夢は、石みたいに硬質の陰陽玉をてゐに投げつけていた。紅白の球体がてゐの桃色ワンピースに直撃して、てゐは呆気にとられた表情で後方へよろめく。 その時、霊夢の頭上で竹の葉がやかましくざわめいた。見上げると、無数のタケノコが霊夢目掛けて降り注いでいた。直後、タケノコの先が頭や腕に突き刺さり落ちていく。霊夢は痛みに顔を顰(しか)める暇も無く、タケノコの山に埋もれていった。 「なによ、やればできるじゃない」 霊夢はタケノコの下敷きになったままほくそ笑んだ。 おわり 『マーキュリー神と大工』より