ちっぽけな存在
雪が積もる小高い丘を越えると、その先は白や紫の花畑が遠くまで続いていた。魔理沙は近くの腐葉土に降りて花に顔を寄せる。球の無いレタスのような花びらが、和紙のように柔らかく広がっている。 ふと、右の頬を冷ややかな風が撫でた。振り向くと目の前には極彩色の花が無数に迫っていた。魔理沙はすぐに地面を蹴って飛び立ち、空中で翻る。魔理沙のすぐ脇を、乱暴な花たちが全速力で駆け抜けていった。 「何の真似だ?」 放射状に広がっていった花の中心に、緑髪を肩に垂らす赤い上下の女性が日傘を片手に佇んでいた。地上の女性は魔理沙に氷のような視線を送る。 「最近、花畑に悪戯する人間が出るのよ。だから排除しないと」 「悪い人間ばかりじゃないだろ。ここを訪れた人間全員を追い払っているのか?」 魔理沙は思わず眉を吊り上げる。対する女性はその場に屈み、足元の花びらを指先で撫でた。 「それなら貴方は、路傍に生える花の一つ一つを丹念に識別して、踏まないようにしているのかしら」 おわり 『賢者とアリたちとマーキュリー神』より