道士たちを象った仏像
布都と屠自古は連れ立って魔法の森を訪れた。その入り口にて、木々をかき分けるようにして建つ平屋が布都の目に留まった。汚れが目立つ漆喰の壁で覆われ、屋根は炭みたいな色の瓦でできている。丸く縁どられた玄関扉の横では、麦藁帽を被った恰幅の良い狸の焼き物が、森の向こう側をぼんやりと見つめている。 「布都と同じ背丈だな」 「たわけが」 二人は大小さまざまな石が敷き詰められた道を辿り、扉に付いた縦長の取っ手を握った。繋ぎ目の軋む音が響く。 「いらっしゃい」 上品な焦げ茶色の台を挟んで、銀髪眼鏡の店主が地味に微笑んだ。板の間へ足を踏み入れる。壁一面に木製の陳列棚が敷き詰められていて、凡そ目にしたことのないような極彩色の物体が所狭しと並んでいる。中央には大きな机があり、そこにもやはり得体の知れない何かが無造作に並べられている。布都は目を皿にして商品を見回り、屠自古は両手を頭の後ろに組んでその後をふよふよと附いていった。 「あ!」 不意に、布都が間抜けな声を上げた。棚の隅に、手のひら寸法の仏像が三つ並んで置かれていた。 「ほら屠自古、よく見てみなさい。真ん中のこれ、太子様にそっくりじゃないか。左のは我、右の小汚いのはおぬしによく似ている」 それまで気の無さそうに店内を眺めていた屠自古も、布都のところへ寄ってその仏像を熱心に見つめた。仏像たちはところどころに金箔がこびり付いているが、大半は禿げて木彫りが露(あらわ)になっている。 二人は仏像を見比べたり、手に取って細かい装飾を観察したりした。それぞれの仏像は何かを訴えるように両手を広げていて、細い羽衣のような僧衣が腕から垂れ下がっている。 暫くして、布都は自分の仏像をそっと棚に戻すと、店主の方を振り向いた。 「ちょっとこっちへ来てくれるか」 店主は頬を緩ませて布都たちのところへ近づいてきた。 「この仏像だが、いくらで売っている?」 「ああ、それは」 「いや、少しばかり待ってくれるか。まずはこれを」 布都は店主を一度遮ってから、“太子様”を両手で差し出した。店主は顎に手を当てて考える素振りを見せてから、持っていた紙切れにサラサラと何かを書きつけていく。二人はその紙を覗き、同時に感嘆の声を上げた。 「へえ。そんなにするの」 「さすが太子様」 「じゃあ、次は私のを見てやってくれよ」 屠自古は自分の仏像を指差した。店主、今度は迷うことなく紙に値段を記す。 「屠自古、おぬしが先に確かめてはどうだ」 布都に促され、屠自古は恐る恐る顔を近づける。そうして紙の文字に目が留まった瞬間、屠自古の眉が激しく吊り上がった。布都も後を追って覗き込み、くくくっと声を洩らした。 「おうおう、屠自古、身の丈に合っているぞ」 「だったら布都、さっさとそれも見てもらえ」 屠自古は布都の仏像を荒々しく指差した。布都は喜色満面、胸を張って店主を仰いだ。 「なんてったって我は一時代を影で操ったのだ。相当なものだろう」 店主は仏像たちをチラリと見た。 「そうですね。先の二体を買ってくださるのなら、それはおまけしますよ」 おわり 『マーキュリー神と彫刻家』より