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にとりの早とちり


 にとりは河原の石に座り、ネジ回しを片手に何やら熱中していた。抜けるような青空に包まれ、絶好の機械日和。
 にとりは、黒く平べったい横長の箱をもう片方の手に取った。中身が詰まっているのだろうか、小さい割に重みを感じる。さらに、真剣な眼差しで箱の隅々を観察する。正面の上半分にはくり抜かれたような白い帯状の部分があり、下半分には文字とも記号ともつかない何かが白字で書かれている。次に、細い上面に付いているプニプニした出っ張りを指先で触ってみる。機械は何の反応も示さない。にとりはいよいよネジ回しを構え、裏側の四隅にある留め具に狙いを定めた。
 その時、対岸の茂みが不自然に揺れた。目を凝らすと、お団子髪の少女が草木をかき分け川へ近づいているのが判った。にとりは青ざめた。あの金髪の彼女は、ふらりと川へ来ては無闇に水を汚す、妖怪そのものである。少なくとも河童たちはそう認識していた。
 にとりは石の陰に隠れ、恐る恐る様子を窺う。少女は穏やかな表情でまっすぐに雑草を踏み越え、乗り越え、ついに“河童の領域”へ足を踏み入れた。にとりは脚を震わせながらも飛び出し、胸に仕舞っていた札を高らかに掲げた。
「このやろ! 瀑布(たき)に呑まれて後悔しろ!」
 直後、川の水が粒となって舞い上がり、波のような動きで少女に襲いかかる。少女は水流を見上げて目を点に丸め、少しののち、にとりを鋭く睨んだ。
「なんだよ! あんたこそ、ただじゃ済まないよ!」
 少女は右足を一歩踏み出し、葡萄色の札を突き出した。赤や紫の弾幕が逆三角形の頂点に集まって渦を描き、一斉に撒き散らされる。
「あああ!」
 にとりが叫ぶのも空しく、無数の毒の弾が川へ飛び込んでいった。

  おわり


『農場にいるライオン』より