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霊夢と魂魄妖夢


 冬の間、妖夢はせっせと“春”を集めていた。後のことを大事に思って、来る日も来る日も労働を惜しまなかった。
 一方、神社の巫女は炬燵でぬくぬくと至福の時を味わっていた。こんな日々がずっと続けばどんなに楽だろうと、寝ぼけた頭でぼんやり考えながら蜜柑を頬張っていた。


 草花の芽吹きが感じられず人々が騒ぎ始めた頃、妖夢もまた春を集めきれずに焦っていた。
 そこへ、異変の元凶を探し求める巫女が現れた。少しだが“春”を持っていそうな人物の登場にこれ幸いと、妖夢は勢いよく襲いかかった。だが素直な妖夢の素直な攻勢は全て流され、全身に直撃を食らって勢いよく地面に激突する羽目になった。
 地面に伏したままの妖夢に巫女がふわりと接近した。
「どうして生真面目に春を集めていたの?」
 五体の痛みで意識が途切れそうなところをなんとか持ち堪えた妖夢は、手で土を握り締めながら答えた。
「西行妖を満開に、させないといけないから」
 顔を歪めて無念そうに語る妖夢を、その巫女は乾いた目で見つめるばかりだった。そして呟いた。
「そう。じゃあ一生素振りと春集めでもしていなさい」
 巫女はそう言うと妖夢を両手で抱え、幻想郷の香りを漂わせながら飛び去っていった。

  おわり


『アリとキリギリス』より