幽香は衰退していました
来る日も来る日も、鋭い日差しばかりが幻想郷に降り注いだ。おかげで大地は渇き、ひび割れ、草花は俯いて黄色の大地を見つめている。花を愛する大妖怪、幽香もまた意識の境界を彷徨っていた。自慢の花畑は禿げた大地に変わり、その上に倒れ込んだ幽香は青白い空に水を求めた。 そこへ、鎌を持った死神が通りかかった。死神は倒れている幽香を見つけると、ヘビイチゴ色のサイドテールを揺らして駆け寄った。 「あれあれ幽香さん。どしたの。手伝おうか?」 「何を手伝うのよ」 顔を覗き込む死神を睨みつける。死神はすごすごと去っていった。 暫くじっとしていると、今度はふわふわの兎耳を付けた女の子がやって来た。女の子は、息も絶え絶えの幽香を見ると、口の端を歪ませながら軽い足取りで近づいてきた。桃色のワンピースがふわりふわりと舞い上がる。 「これまで、よくも私をコケにしてくれたね」 女の子は墨と筆を取り出すと幽香の顔に三本髭と睫毛を描き込み、最後に鼻を黒く塗り、「猫だねえ」と満足するとその場を後にした。 青空に浮かぶ雲のいくつもが、幽香の頭上を通り過ぎていった。起き上がろうとしてもあまりに身体が重く、かといってうつ伏せのままでいるのにもいい加減うんざりしていた。 その折、幽香と同じ緑髪を生やす蛍の妖怪が訪れた。蛍は墨にまみれた幽香の顔を見ると口をプッと尖らせたが、大袈裟な咳払いをしてみせた後、幽香の下へ寄ってきた。 「幽香さん?」 幽香の全身を見回す蛍に対し、幽香は薄目でその様子を見つめる。蛍は幽香の顔に目線を戻すと、不敵な笑みを浮かべた。 「ははーん。この日照り続きですっかり弱ってしまったんですねえ。 いい気味です。たまには虐げられる者の気持ちも味わってください」 蛍が幽香の顔を足先でつつく。幽香は歯ぎしりも弱々しく蛍を凝視した。 「死神、素兎、力のある者ならばまだしも。貴方みたいな力のない者に苛められるなんて」 青筋を立てる幽香に対し、蛍は涼しげな顔で立ち去った。 翌日、幻想郷一帯に久方ぶりの雨が降り、その次の日には幻想郷に花が咲き乱れた。 おわり 『年老いたライオン』より