大きな傘と小さな傘
「貴方、勝手に花畑を弄って只で済むと思っているのかしら」 「あら、この辺りの結界を視察しに来たに過ぎないわ。 それとも何? 貴方が私の役目を引き受けてくれるのかしら」 澄み渡る空のもと、二人の妖怪が空中で対峙していた。眼下にはひまわりの黄色い海が広がる。花畑に生息する妖精たちは、茂みに隠れて二人の様子を窺っている。 花畑の主である緑髪の妖怪は、丸みを帯びた日傘を震わせて相手を睨む。対する金髪の妖怪は“ちょっと散歩に来たのよ”と言いたげな表情で、すらりとした輪郭の日傘を前後に揺らす。草花をこする風の音だけが響く中、二人の距離が徐々に縮まる。 「わ! なになにー?」 その時、緩みきった声が地上から響き渡った。空中の二人は目線を下に遣る。間髪入れず、紫色(むらさきいろ)の大きな傘を持った青髪の少女が、花畑から飛び出してきた。 「もう。無闇に争ってもしょうがないよ。ほら、傘を愛する者同士」 上昇を続けていた少女の前に赤黒い裂け目が突然現れ、そのまま、少女の体は吸い込まれていった。 おわり 『イルカとクジラと小魚』より