ヤマメ地上進出
ヤマメはある確信をもって、密かに計画を立てていた。そうしてこの日のために用意した桜色のワンピースを身に纏い、地底の穴から颯爽と外へ飛び出した。 ヤマメは人里に着くと、人々の視線もお構いなしに往来のど真ん中を歩き、適当な広場に辿りつくと大きく両手を広げた。 「さあさあみんな、アングラガール・黒谷ヤマメが人里にやってきたよ!」 人々は悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い始めた。どうしたことかとヤマメはうろたえ、周囲を忙しなく見回す。そのとき通りの奥から、青い家の模型を頭に乗せた銀髪長身の少女が、鬼の形相で駆け寄ってきた。 「こらあ! 昼間っから何しているんだこの妖怪!」 ヤマメはぎょっとして、慌てて逃げながら空に向かって叫んだ。 「なんでさ! 楽器を鳴らす変な幽霊はあんなに喜ばれるのに!」 おわり 『陽気なロバ』より