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わかさぎの威を借る妖精たち


 真っ昼間の湖に、妖精や妖怪や蛍や夜雀が集まった。どれも子供である。四人は湖面に向かって「おーい」と呼びかけた。すると湖の中央から、少女が控えめに顔を出し、四人に向かって微笑んだ。水に濡れた青い髪は太陽の光を浴びて透き通っていた。四人は少女の下へ飛び寄り、お話をしたり弾幕を撒いたりして楽しんだ。
 暫く遊んでいると、背中に黒い羽を生やした小さな者が、日傘を片手に湖の畔を通りかかった。目立つ桃色のドレスを纏っているので、妖精たち五人はすぐにその姿が目に留まった。いち早く、妖精が小さな者に近寄る。
「そこのあんた! あたいの湖を素通りするなんて許さない!」
「はあ? 妖精には興味無いわ。帰って帰って」
 小さな者は眉を吊り上げ、妖精に目も合わせず左手で追い払う動作をしてみせた。その間に、残りの皆も妖精のところへ集まった。銀色の羽をもつ茶色の夜雀が歌うように語りかける。
「赤いリボン! 赤い目の! 女の子! 妖怪さんに~襲われて~、消えちゃった~」
「貴方たち、ええ、ええ、いい度胸じゃない。そこまで望むなら徹底的に痛めつけてあげるわ!」
 小さな者はドレスの裾が舞い上がるのも気にせずぐるりと振り返り、ずいと右足を踏み出し拳を作ってみせた。その時、小さな者と、湖で尾鰭をぴちぴちさせている青髪の少女との間で、ばちりと視線が交わされた。その人魚は目線を逸らして顔を赤らめるが、それにも増して小さな者はひどく青ざめた。
「なっ……。まあいいわ。今日は私の寛容と忍耐に免じて赦してあげる」
 小さな者は二、三歩後ずさりしたのち、一目散に湖から逃げ出した。
「おお!」
 妖精たちは、水から上がれない人魚を置いて小さな者の後を追った。走りながら、小さな者の背中に向かって弾幕を乱射する。だが、湖から離れた平地で、小さな者は突如くるりと反転した。
「お前らじゃないのよ!」
 妖精たち四人は、小さな者の巨大な槍に薙ぎ払われて彼方へ吹っ飛んだ。

 湖に残った人魚は、しきりに水しぶきを上げておもしろがっていた。

  おわり


『ロバとオンドリとライオン』より